カエルのココロ 3
食べる―食べられるという関係には、誠に深遠なモノが潜んでいる。
ある日、こんな光景を見た。
水槽の上下左右を斜めに横切るように、直径一センチくらいの枝がさし渡してある。カエルちゃんたちのお気に入りの場所で、よくそこに止まっているのを見かける。
その日はバッタが豊富だった。公園で大量に捕まえてきたからで、中には指の関節ふた節くらいのかなり大きなバッタもいた。枝に止まっていたカエルちゃんが、水槽のバッタをめがけて飛んだ。バッタはぱくりと口の中へと思いきや、なんと大きすぎて口からはみ出している。
今までにもこういう事はあり、最初見たときはびっくりした。カエルの身体は柔らかく、飲み込んだモノの形に合わせて変形する。バッタの足を口からはみ出させた「ひし形カエル」である。と言ってもやはり楽な体勢ではないのだろう。バッタを口いっぱいに頬張ったまま、目を白黒させ、じっと動かない。けれども、そのうちバッタの足は少しずつ短くなっていき、ついには飲み込まれてしまうのが定番のストーリーだ。
その日は様子が違った。どうにかバッタは捕らえたものの、飛び出した枝に片足の吸盤を引っかけたまま、逆さづりになっている。カエルの吸盤というのは、本当に優れもので、指の一本、吸盤ひとつでもけっこう体重は支えられる。しかし、その体勢はあまりに不自然だった。
カエルちゃんは苦しそうにもがいている。そのあげく、一度は体勢を立て直し、枝に戻ったものの、また再び逆さづりの宙ぶらりんである。いつもとどこが違うんだろう、と私は思った。よく見ると、カエルちゃんの口からはみ出しているのは、バッタの足ではなく、頭であった。ここから先は想像に過ぎないのだが(こういう想像はしたくない人もいるかもしれませんね)、頭から飲み込んでしまえば、バッタは気絶し、すぐ動かなくなるのではないだろうか。しかし足から飲み込んだ場合、バッタは意識があり、いつまでも抵抗を続ける。そのせいで、さすがのカエルちゃんも、思うように飲み込めないのかもしれない。
ついに決着がつくときが来た。カエルちゃんの口から、バッタがのそのそと這い出してきたのだ。その動きはお世辞にも速いとはいえなかったけれど、カエルちゃんの方にはすでに追いかける気は全くなかった。
と言うわけで、カエルの胃袋まで足を突っ込んだバッタは、その後もしばらく生き延びていた。それでも最後にはいつの間にか、消えてしまっていた。カエルちゃんは、こんどは飲み込む方向にも気を遣ったのではないだろうか。
(続く)
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)

最近のコメント